handmadejapan.com ［日本の手しごと］/Side Story #325：『＜湘南の漆＞の若き漆作家たちー佐藤智洋さんと堀田洋二さん』

溜内朱スープカップ
直径8.0cm/高さ6.5cm/ミズメザクラ

伝統工芸の世界でも、1970年代生まれの作り手たちが、弟子入りから独立、助走の期間を経て、新しい感覚を武器に伝統の世界に存在感を高めつつあります。戦後生まれの両親のもと、豊かな社会に生まれ育った彼らが、工芸とどのように出会い、これからどのような仕事をしようとしているのか、興味のあるところです。
「湘南の漆」というくくりで個展やグループ展を展開している湘南地域に住まう作家　佐藤智洋さんと堀田洋二さんを訪ねました。

　 その1：個性ある仕事を目指す佐藤智洋さんを訪ねて

大学で地理学を学び地図の会社に就職しようと考えていた青年は、いま、漆作家としてこれからという時期にさしかかろうとしています。佐藤智洋さん、39歳。8年前から日本民藝館展にも入選を続け、本格派漆作家としてのキャリアは順調です。

仙台出身の祖父の家には、郷土玩具や古い工芸品がたくさんあり、幼い頃からそれらを見て手作りには興味を持っていました。東北に多いこけし作りの職人にあこがれたこともあったそう。そして、地図会社への就活にも熱が入らず、東北の作り手を訪ね歩いていた時、当時、シンプルな無地の椀を作っていた会津の漆作家相田啓介氏の仕事に出会い、漆の基礎も習ったことのない青年でしたが、その熱意が伝わり、晴れて相田氏に弟子入り。佐藤さんにとっては人生初の決断でした。相田氏の塗りのスプーン作りを手伝ううちに、いつか自分でも作ってみたいと思うようになりました。会津での一人暮らしの5年半の修行が終るころ、同じ会津の谷口吏氏から漆掻きの基本を習う機会もありました。谷口氏はていねいに彫りだしたナイーブな形のスプーンに、上質な漆をたっぷり着せた宝物のようなスプーンを作る方でもありました。谷口さんのスプーンに接したことで、佐藤さんのスプーンへの思いは揺るぎないものになっていったようです。そして、そろそろ独立の時がきていました。

鉢三種 (手前)溜塗八寸浅鉢→直径24.0cm/高さ5.5cm/トチ (右奥)溜塗中鉢→直径16.5cm/高さ5.2cm/トチ (左奥)溜内黒小鉢→直径12.9cm/高さ3.9cm/トチ	彫刻皿手前から地固め彫刻長角皿・地固め彫刻長角皿(朱)・地固め彫刻楕円皿・地固め彫刻楕円皿(朱) 全て縦10.0cm/横29.8cm/高さ1.1cm/アガチス
溜塗小皿直径13.5cm/高さ1.8cm/カエデ	溜塗中皿直径20.5cm/高さ2.1cm/トチ
本朱小皿直径13.5cm/高さ1.8cm/カエデ	溜塗中鉢　直径16.5cm/高さ5.2cm/トチ

毎日使ってもらえる漆塗りの食器を作りたい、との初志に向かっての独り立ちのとき、もう一つの出会いがありました。「湘南の漆」の提唱者伏見眞樹さんです。伏見さんは孟宗竹から彫りだしたスプーンに漆を塗り、竹と漆のカテラリー・コレクションを15年来作り続けています。（Side Story#180)。

横須賀から週3回伏見さんの工房に通い、本堅地などの技法を一から習い直す修行の始まりでした。2年ほどで着実に腕をあげ、技の巾を広げ、そして10年がたった今、満を持し、キャリアの初期に彼のこころをとらえたスプーン作りに取りかかりました。“相田先生、谷口さん、伏見さんにお世話になってゆくうちに、私もスプーンを作りたいという思いが強くなってゆきました”と佐藤さん。スプーン裏面の微妙なカーブに試行錯誤を繰りかえし、塗りの工夫も重ね、そろそろ完成の形が見えつつあるようです。
長年にわたりたくさんの漆作家を見てこられた「スペースたかもり」の高森寛子さんは、佐藤さんの漆器を“手がきれいで、きっちりした仕事”と高く評価されています。趣味のランニングを通じて知り合った仲間たちにそれとなく漆器の素晴らしさをPRしたり、デパートでの展示会では、足を止めた若い人たちに丁寧に説明するといった努力を積み重ね、着実にファンを増やしています。問屋とは無縁の作家たちは、お客さんとよいコミュニケーションを持つことが何よりも大切です。
それほど遠くない将来、完成したスプーンをこのサイトでもご紹介できることを楽しみに待ちたいと思います。
facebook：UrushikoboTomo

（2016/1　よこやまゆうこ）