納戸の奥から出てきた古い簾(すだれ)。断捨離の一環として捨てようかと広げてみたところ、縁の絹布にほころびがあるほかは、竹の部分には全く傷みがなく、黴も生えず、虫にもやられていません。5~60年以上の歳月で煤竹のように飴色に変化しています。現代の暮らしから消えてしまった夏の座敷簾は、日よけのために窓の外につるす青簾とは異なり、梅雨あけの頃、襖(ふすま)ととりかえて使われました。クーラーのない時代、見た目にも涼感があり、風通しをよくする重宝な調度品でした。
捨てるには忍びない。そこで、何とかならないかといじってみたところ、そこには昔の人の智慧、美感、手の技がしっかり見てとれました。日常のしつらえのなかで使われ、工芸品とも呼ばれない簾。しかし、名もなき職人たちの仕事への心意気が、各素材—竹、布、組紐、鉄、すべてに見ることができました。
まず、ぼろぼろにすり切れた布をはがすと、布の下は薄いけれども腰のある和紙で裏打ちされており、補強とふっくら感を出していることがわかります。縁布は細い凧糸で2cm間隔に竹ヒゴに搦められ、裏表が同時に縫いつけられています。
このかがり作業は、布のように柔らかくないので、かなりやり難いのではないかと想像します。断面1mmほどのヒゴは四角っぽく、竹を割く道具と手技により、裏も表(竹の皮と身)も滑らかです。巾の広いほうの簾には、ヒゴに二つの節が通っています。一本の竹から一枚分のヒゴを取り並べたものか、節の微かなふくらみは曲線を描くようわずかずつずらして編まれています。節のふくらみを利用して景色にしたてているのも工夫が感じられます。組紐の房は激しく退色していますが、鋏を跳ね返すほどしっかり組まれていて、絹糸の耐久力を感じさせます。巻き上げたときに留めておく金具。相当錆びているので鉄製らしく、平らな両面には唐草の模様が浅彫りされています。
さて、解体・検証した結果、とても処分する勇気はなく、積年の埃をおとした簾は、再び新聞紙にくるまれ、納戸の奥へと納まったのでした。優れた手しごとは捨てられない!
京都に創業1883年、今年2月「京の老舗表彰」を受けた久保田美簾堂があるようです。一度訪ねてみたいものです。
(2016/5 よこやまゆうこ)
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