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<実験工房>裂織のジャケットを作る
<実験工房>裂織のジャケットを作る
SideStory#215でご紹介した小林純子さんの繊細な裂織布は、古い絹布を細く切って使います。その軽くて味わいある布が世界でただ一枚のジャケットに仕上がりました。その顛末を織り手と注文主斎藤正光さんからの投稿でご紹介します。


布作り編
 5月の連休前に横山さんからジャケット用の裂織布の織り手を捜している男性がいるとご連絡をいただき、どうして裂織布なのだろうと興味を持ったのが始まりでした。手持ちの裂織布を見てもらい、斎藤さんが布の色や風合いに細やかなこだわりをお持ちであること、特に使い込まれることで育つ藍染の木綿や麻布のような味わいがお好きであることがわかりました。藍色系の裂織布を織ることに決まり、しばらく待っていると、6月になって古民芸もりたの倉庫に眠っていたという絹で藍染の着物や裏地が送られてきました。その後も何回か古布や着物が斎藤さんから届き、それらをほどいて洗い、7月半ばには4種類のサンプル布を織り、中の一点を選んでもらいました。
 素材として使うことになったのは、藍色の濃淡のたて縞の絹の着物2枚と藍しじら織りの着物(綿)、藍に染めたイタリー製の絹の裏地と、手持ちの紺色の絹着物地2種の、合わせて6種類の布です。長年裂織をしていると着られなくなった着物をいただく機会が多く、今ではほとんどいただいた布を組み合わせて素材として使っています。既にある物を寄せ集めて別のものを作るという意味では、裂織はブリコラージュのようなものだと日頃から感じていますが、今回は斎藤さんからたくさんの素材の候補布を送っていただき、ふんだんな選択肢の中から6種類を選ぶことができました。なかでも藍たて縞の着物の片方は裏に30枚以上小さな当て布をして繕ってあり、長年大切に着られていたようでした。一見無地でありながら色のゆらぎがある布になるよう、用尺を織るための素材の配分も考えつつ、ほぼ一段ごとにシャトルを持ち替えて織り進めます。濃い藍色に染まった絹には紫や茶色味も感じられて、それがベースの藍色に混ざり、熟しかけの山ブドウのような色の裂織布になって8月終わりには斎藤さんの手に渡りました。
 織物は、素材を布に織り上げるまでにかなりの時間とエネルギーを使いますが、日頃の製作ではその布の加工まで自分で手掛けることが多く、もっと布のまま自由な発想で使ってもらえればと思っていたので、今回はとても楽しく仕事させていただきました。織物を始めた40年近く前、まだ裂織というものがあることも知らない頃に、たまたま立ち寄った古民芸もりたで風合いに魅かれて買った男物の無地の細帯が裂織でした。その後織りを続けて裂織に行き着き、今回そのお店の布を素材として使わせていただいたことにも感慨がありました。(小林純子さん)



ジャケット制作
 エッフェル塔のほど近く、セーヌ川のほとりにあるケ・ブンランリー美術館からレセプションへの招待状が届きました。 ケ・ブンランリー美術館は元フランス大統領のシラクさんが作った、欧州以外の地で生まれた文明と芸術との新しい関係をテーマに掲げた美術館で、今年の11月から来年の4月まで日本の竹籠の展覧会が開催されることとなり、そのオープニングパーティの招待状です。 私は日本の竹籠を集めており今回展覧会に貸出しをしたため、招待されたわけです。
  日本で竹籠の収集というとややマニアックな扱いを受けますが、 欧米には沢山の竹籠のコレクターがいます。 欧米の竹籠のコレクターは日本人とは少々違う視点で竹籠を愛でていて、 日本美術・工芸として鑑賞するのはもちろんですが、形の面白さからかコンテンポラリーアートに見立てたり、インテリアを飾るオブジェにしたりします。 また、竹籠の「編む、組む」という工法が布の「織る」という行為に通ずることからテキスタイルやファイバーアートとして捉えられることもあります。
  そのようなコレクターたちと交流する今回のパーティに出席するにあたり、どのような格好をすればよいのか悩みました。人数は少ないとはいえ日本の竹籠の展覧会の、日本の竹籠愛好家の代表、気持ちの上ではすっかり日本代表です。折しも今年は日仏国交160周年。フランス語はもちろん、英語も拙い、寡黙な日本のおじさんがただの地味なスーツでは、日本代表はおろか、存在にも気付いてもらえないかもしれません。せめても格好だけでも…!着物はどうかと考えましたが、普段着ているわけでもないので見る人が見ればハリボテであることが一瞬にしてバレてしまううえ、一人では着ることもできません。 きっとパリで出会う彼の地の竹籠愛好家はファッションや素材にもうるさいはずです。願わくば彼らと楽しくコミュニケーションするきっかけを作ってくれる装いをするには、一体どうすればよいものか…。


 そこで日本ならではの生地を使ったジャケットを誂えるのはどうだろうか、中でも裂織りに以前から興味を持っていたので、裂織りでジャケットが作れないものかと考えました。
沢山の工芸作家をご存知の横山さんに相談したところ、鎌倉で美しい裂織りを作っていらっしゃる小林さんをご紹介頂きました。早速、小林さんに相談したところ、綿を材料にした裂織りは重たいが、絹なら軽く出来上がるとのことで、材料となる絹の生地を探すことから始めてみました。 最初はネットなどを通じて探したのですが、手に取って見られるわけではないので要領を得ません。そこで、青山の「古民芸もりた」の森田さんに相談したところ、ちょうど倉庫の整理をしているところで、羽織の裏地で藍染のものが沢山あるとの返事でした。それらとイタリアの絹の裏地を紺屋に染めてもらったものなどをあわせて、鎌倉の小林さんに託しました。私は藍色のジャケットを作りたいと藍染の生地のみを渡したのですが、藍の古布を引き立たせるため、小林さんはご自分が持っていた無地の布も混ぜて織ってくれました。素材を渡してから一月半、出来上がってきた裂織りの布は美しい色を放つ、私が想像していた以上の素晴らしいものでした。
 次に、それを知人のデザイナーにお願いしてジャケットのパターンを作ってもらい、裏地とボタンホール用に古いスカーフやネクタイを用意し、裂織りの裏側をジャケットの表側に使って、少しラフな表情を出してもらうようリクエストをしました。
 かくして完成したのがこちらのジャケットです。 布も、竹籠などの工芸品と同様で、材料や制作のプロセスを知ると理解と愛着が増します。
このジャケットはフランス語も英語もダメな私に代わり、きっと饒舌にパリの人々に語りかけてくれることと思っています。( 竹工芸収集家 斎藤正光さん)




ケ・ブランリー美術館 籠展

斎藤さんの帰国後、パリでの展覧会の様子などを含めてお知らせする予定です。

(2018/12 よこやまゆうこ)

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