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<続番外編>裂織ジャケット、パリに繰り出す
<続番外編>裂織ジャケット、パリに繰り出す
裂織の特製ジャケットに身を固め、竹籠コレクターの斎藤正光さんが乗り込んだパリでの展覧会からのレポートです。果たして、SideStory#368 でご紹介したジャケットの評判はいかがだったのでしょう。


11月下旬、夕方のシャルルドゴール空港に到着。実に30年ぶりのパリ。タクシーから外を眺めると風景が以前と違います。私の記憶のパリの夕暮れは黄金色の明かりに街が浮かび上がっていましたが、今回はどうも明るさが違うのです。しばらくして、街を走る車のライトの色が違うことに気づきました。実は12年ほど前から他の欧州の国々と同様に、車のライトもそれまでの黄色から白色灯に変わったとのこと、街を照らす明かりから改めて欧州が統合されたことを実感しました。
翌日は早々に、目的のケ・ブランリー美術館訪問です。ケ・ブランリー美術館は欧州以外の地でうまれた文明と芸術との新しい関係をテーマに掲げた先進的な美術館ですが、その斬新さと豊かな個性は、ジャン・ヌーベル設計の現代的な建物と、「生きた壁」と呼ばれる中国や日本、アメリカ、中欧から集められた植物に覆われた有機的な外観からも窺い知ることができます。
展覧会オープニング前日、プレス発表、80名ほどの関係者のランチ、そして夕方からはカクテルパーティです。美術館館長をはじめ、アートにうるさい欧州の評論家や各界の専門家、コレクターが一堂に会するのです。流石に緊張しますが、いよいよこの日のために制作した裂織ジャケットの出番。満を持して着用し我こそは日本代表という気概で臨みました。
ランチとカクテルパーティは美術館のホワイエで行われ、ステファン・マルタン館長の挨拶と日本の竹籠の紹介で始まり、大変な賑わいを見せました。さすがワインの本場、白・赤のワインがランチからふんだんに提供されるとは、食事が提供されることすら珍しい日本の美術館のオープニングではまずありえないことだと驚きました。そのくせ、見るからに酔っている人がいないのもまた不思議です。

夕刻のカクテルパーティは内覧会も兼ねて行われたもので、述べ3000名もの来場者を迎え、昼に続きこちらも大盛況でした。今回の展覧会はヨーロッパでは初めての大規模な竹籠の展覧会です。コレクターを除いてはこれまで日本の竹籠を見たことがない人たちがほとんどなので、明治から現代作家までの竹工芸品約70点に目を凝らし、その素材や形、そして工作技術に感嘆の声を上げていました。日本でもなかなか見られない竹工芸の逸品の数々に、来場者の方達みなさん目を輝かせ、熱心に見入り喜んでくださったのが印象的でした。
 そんな中、私の裂織ジャケットはと言うと、早速パリのコレクターの一人が目をつけ近づいてきて、あれこれ質問を始めました。その生地の素材はなにか?裏地やパイピングはいったいなにごとか?etc…マニアックな質問責めのその度に裂織りの説明をしてゆくと、次第に人だかりまででき、ついにはジャケットを脱いで皆さんへお披露目タイムを設けるまでの盛り上がりを見せてしまいました。当然といえば当然です、このジャケットは、横山さん、鎌倉の小林さん、おじいさんの着物を提供してくれた友人、そして青山のもりたさん、知人のデザイナーの技術と知恵と労力の賜物です。かくして緊張のオープニングレセプションも、このジャケットのおかげで忘れがたい素敵な一日となりました。
翌日から一般公開が始まり、夜は美術館最上階のレストラン・レゾンブルで作品提供者と作家や関係者による夕食会。エッフェル塔がすぐ隣に見え、内装もとてもモダンなレストランです。もちろん、この日も裂織ジャケット着用で、私は旧知のコレクター仲間や関係者達と同席し愉快な時間を過ごすことができました。時折エッフェル塔の光を放つアトラクションもあり、美味しい料理に加えてパリの夜を思い出深く彩ってくれました。
ご存知の通りフランスではこの時期大規模なデモなどもあり、街は騒然としていましたが、美術館の中はその影響もなく、無事に催事を行えたことは何よりでした。また、時を同じくして開催されていたパリ市内のギャラリーでの竹工芸作家田辺竹雲斎の個展や、日本の竹籠が複数展示されたパリ装飾美術館にも足を運ぶことができました。
かくして私のパリ旅行は無事終了です。ケ・ブランリー美術館はもちろんのこと、今回訪れたパリの様々な場所で裂織ジャケットが話題になり、それをきっかけに日本文化の話に花が咲いたことは言うまでもありません。(斎藤正光さん)




斎藤さんの情熱と探究心、遊び心、なによりもその拘りが完成させたこの世で一つの裂織ジャケット。寡黙な日本男児のよき援軍として、日本の手しごとを愛でる海外の人々に大いにアピールした由。こうして作られた品は、高級ブランドものよりも遥かに愛着の一着になるでしょう。写真の日本男子3名、それぞれのファッションも決まっていますね。左端は竹芸家・四代田辺竹雲斎さん、中央はエルメスやクリストフルのデザインを手がけているパリ在住のアーティスト・カワハラシンスケさん。

(2019/2 よこやまゆうこ)

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