Home Feature Side Story Shopping About Us
prev.
『工夫が大好きな裂織男子 秋園圭一さんを訪ねて』

    秋園圭一さんの裂織りのジャケットが、六本木の東京ミッドタウンで開催された「第59回日本クラフト展」に入選しました。タイトルは「鬼-URAMI-」。その意味は、使われることなくしまわれている着物が、恨めしさから鬼の面をもつライダース風のジャケットに変身、との意。斜め柄の技法を駆使した大胆でシャープな織り柄。縦横斜めの線を生かした布作りに邁進していらっしゃいます。さて、この裂織作家、どのような人物なのか、興味津々です。

    1985生まれの秋園さんは小さい時から工作が大好き。厚紙とセロテープさえあればハッピーな少年でした。TVゲームなど見向きもせず、何時間でも何かを作って遊んでいたという。手で考えるという習慣を身につけました。有名大学機械工学科に入学し、父親の影響もありロボット製作の道に入るも、ロボット作りのほんの小さな一部分にしか関われないことに不満を感じ、次第に、”日常にあるもの”を自分で作りたいと思うようになりました。
    お母さんのしつけがまたユニークです。3歳の男の子に針と糸を渡し、靴下の穴を繕うことを教えたのです。危ないからナイフで鉛筆を削らせない、という風潮のなか、小気味良い教育方針です。針と糸に馴染んだ少年は二本針の編み物に手を伸ばし、なんとか1本目のマフラーを編み上げ、セーターにカーディガンにと挑戦。人間工学を専攻しつつ、家ではニット制作に勤しんだのです。
    さて、就活の季節。学友は大手メーカーに決まってゆくなか、彼が選んだのは大型手芸店。この選択にご両親の猛反対があったかと問えば、好きなことをすればいい、と許してくれたとのことですから、素晴らしいご両親に恵まれたものです。
    手芸店は手作りに必要な品々にあふれ、彼にとってはパラダイスだったのでしょう。次第にすべての時間をものづくりに使いたいとの情熱が高まり、三年ほど勤めたのち、なんのあてもなく独立。こうして毎日が創作の日々の理想が現実に。革靴やビーズ細工、竹籠編み、バッグ作り、様々な材料のボタン作りなど、素材を問わず手作りの幅を広げてゆきました。驚くべくは、自宅マンションで800頭の蚕を育て糸を取るところまでやりとげたこと。桑は近くの山で採取、ソーセイジ状の幼蚕用の餌なるものもあるというのです。団扇の竹の骨に蚕を乗せると骨に糸を吐き、繭のかわりにキラキラ輝く絹糸の張られた団扇ができることや、10円硬貨を元に夜光貝を封入してボタンにしてしまうとか、それはそれは奇想天外で自由なのです。そしてその色使いも派手!まさにラテン系の色彩感覚をお持ちのようです。
 
    そうして閃いたのがMOTTAINAIの精神。タンスの肥やしと呼ばれる絹の着物は、二束三文で古着屋に引き取られることが忍びないと。一声かけると、使って下さい!とたくさんの着物が持ち込まれました。

    秋園さんの最大の特長は『工夫』が大好きということ。制約があればあるほど挑戦の楽しみがあり、達成感を感じるのだそう。繰り返し同じものを作らないというヒラメキ型でもあります。さらに、青年時代に磨いた洋裁の腕で、イメージ通りのものを自分で作ってしまえるのですから、洋裁師に意図を伝えるもどかしさもありません。しかも、素人離れした丁寧できれいな仕上がりなのですから驚きます。
    工夫はデザインにも生かされます。普通のジーンズと見えるパンツはジッパーで開き反転すると、タータンチェックの短パンに、ニットカーディガンは袖を取るとチョッキとレッグカバーに。写真のベストは色違いのバイヤス布を重ねて織ったリバーシブル。
    さて、男35歳独身、これからどう展開していくか。今回の日本クラフト展での入選を期に、珍しい技法や作品が、彼の望み通り、日常に身につけてもらえるといいですね。案外、アメリカなどのArt to Wareのコンセプトに合致するかもしれません。

(2020/1 よこやまゆうこ)

(C)Copyright 2004 Jomon-sha Inc, All rights reserved.

このホームページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。

 

(C)Copyright 2000 Johmon-sha Inc, All rights reserved.