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<番外編><シリーズ・私のたからもの>広瀬一郎のたからもの 『駒井哲郎銅版画作品集』

<私のたからもの>シリーズは西麻布で長年にわたり工芸の店を経営し、30年ほども現代の工芸を見つめていらした広瀬一郎さんにバトンを受け取っていただきました。広瀬さんのたからものは、工芸品のような書籍でした。

「本の時代」は終わったのだろうか。電子デバイスでいくらでもテキストが読めるようになって以来、本の価値は下落する一方だ。たしかに、重くて場所ふさぎ、二度読み返す本はめったにないから、本は不要といえば不要かもしれない。しかし、かって本が輝いていた時代があった。貪るように本を読み、読み終えた本を書架に収めて、背表紙を眺めているだけで幸せな気分に包まれる時代があった。

そんな時代に巡りあった一冊の本が『駒井哲郎銅版画作品集』。1979年5月に美術出版社から刊行された。奥付けを見ると、「オリジナル銅版画一点(<樹>1971年作)を付し、皮装、めおと函入りの特装本に仕立て、限定100部を作製した」とある。本が工芸的な美しさをもって、愛おしむように丁寧に作られていた時代の本だ。僕はこの本を神田神保町の「東京堂書店」で刊行直後に購入した。まだ木造だった落ち着いた雰囲気のこの書店の2階には美術書のコーナーがあった。ガラスケースのなかに納められたこの本の周囲には、駒井哲郎の銅版画がもつ明晰な精神とそれを支える強靭な意志、そして危ういほどに繊細なこの作家のこころの慄えが感じられた。本がまだひとを動かすアウラをもっていた時代だった。
いまでも、この本を取り出して広げるときがある。造本の良さ、表紙の皮の手触り、用紙の選択、印刷の技術、年譜や作品解説など、抜かりなくいき届いた編集の妙。これはやはり、ひとつの工芸品ではないかというおもいに行き着く。ひとの手わざと叡智が結集して「本」というすがたを得た。

忘れ得ない一冊の本が手のなかに収まったとき、その持ち重りする手応えからは電子書籍からは得られぬ歓びが伝わってくる。本が美しく輝いていた時代、だれもがこんな一冊と出会ってきたのではないだろうか。「本」は意外にしぶとく生き残るかもしれない。

桃居  広瀬一郎
<展覧会のご案内>

桃居
〒106-0031 東京都港区西麻布2-25-13
営業時間 11:00~19:00
定休日: 水・木曜日 (常設期間中は日・月曜日及び祝日)
http://www.toukyo.com/exhibition.html

稲葉直人 土鍋展
2021年2月12日(金)~2月16日(火)
11:00~19:00 (最終日は17:00まで)

渡辺遼 須田貴世子 二人展
2021年2月19日(金)~2月23日(火)
11:00~19:00 (最終日は17:00まで)     
(2021/2 よこやまゆうこ)

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