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<番外編><シリーズ・私のたからもの>『竹工芸家藤原満喜さんの宝物は異国の手編籠』
   こちらでご紹介した竹工芸家・藤原満喜さんは、竹工芸を通じて海外の同種の作り手たちと積極的に交流し、技の交換を楽しまれました。その出会いからの宝物です
   1980年代初頭、私はフィリピン・ルソン島北部の山間の集落で、青年海外協力隊員として竹工芸を指導していました。日本で4年間ほど弟子生活をした若い半人前の職人が、豊かなフィリピンの竹文化の世界の中で何をしようとしたのか、何ができたのかと、今でも時折思うことがあります。
   それでも、小さな集落のマンゴーの木の下で開催された竹籠プロジェクトの時間は、私にとって忘れられない大切な時間となりました。当時私は20代でしたが、参加者のなかに集落で1番腕のいいペドロという40代前後の寡黙な職人気質の男性がいました。彼は毎回私の作ったサンプルを一目見て翌日には私以上のクオリティーに仕上げて持ってきてくれました。彼が私の帰国時に、たった一言「おみやげだよ、ありがとう」と言って手渡してくれたのが、地域で作り続けられてきた「ラッバ」と呼ばれている野菜篭でした。
   胴は網代編み技法で緻密に編み上げられ、縁は籐でしっかり仕上げられています。室町時代に中国や東南アジアから持ち込まれた唐物に同じような技法やフォルムの篭がありますが、ひょっとしてその頃からルソン島でも作り続けられていたのではと思ってしまいます。
   実用性、堅牢さ、美しい意匠、手にした時の感触、すべてを満たしている完成された造形の篭です。そして1人の工人の個性は、そんな完成された造形の中にも現れます。思いやりのある誠実な人柄は、器に優しいしなやかなラインを生みます。
   もうひとつはイギリスの友人がプレゼントしてくれた、ウィローバスケットです。作者は視覚障害を持つ工人とのことでした。篭は見るものではなく触れるもの、抱くものと実感させられる美しい篭です。なめらかで触れているだけで不思議な安心感を与えてくれます。
   現代の工芸は私も含めてともすると視覚的な表現に偏りがちです。今だからこそ手を触れたくなる器、抱きたくなる器の造形が求められているように思えてきます。そんな思いにさせてくれる2点の篭が私の大切な宝物です。

藤原満喜・大分


藤原満喜作
藤原満喜 竹の仕事展
と  き 5月25日(水)~31日(火)
ところ 銀座三越 東京都中央区銀座4丁目6
本館7F プロモーション/ジャパンエディション
03-3562-1111
(2022/5 よこやまゆうこ)

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