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<番外編>『K MoPA   清里フォトアートミュージアム』
    清里狂乱が終焉して久しくなります。とはいえ、今でも清里というと、『萌木の村』やソフトクリームで知られる『清泉寮』が行楽地の筆頭でしょうか。
    『K MoPA 清里フォトアートミュージアム』は、大人が訪ねる価値のある、写真に特化した美術館です。ゆったりした建物の大きなガラス張りの開口部から木立が眺められ、テラスのテーブルで過ごすひとときは、都会の熱を冷やしてくれそうです。1995年創立というので、すでに28年。館長は細江英公氏。写真の好きな人なら必ずやご存知の日本写真界の重鎮です。1963年発表の三島由紀夫を撮った『薔薇刑』は衝撃的でした。

    さて、『鉄道愛 For the Love of Trains』と題された夏期の展示をご紹介します。鉄っちゃんとか鉄オタとか呼ばれる鉄道を愛してやまない方々にとっては必見の展覧会です。
    蒸気機関車は、その巨体で坂を喘ぎつつ上るさまや、白く深い蒸気を吐きあげるさま、甲高い悲鳴のような汽笛を発することなどから、圧倒的存在感は迫力満点、感情移入しやすい工業物の筆頭のような気がします。
    ちなみに、日本に鉄道が開通したのは1872年(明治5年)、蒸気機関車は1959年にはディーゼルに取って代わられ製造終了。1975年北海道の在来線を走ったのが最後とされています。

    会場に足を踏み入れると、まず目を引くのは巨大な鉄道のジオラマ。1920年代アメリカ山岳鉄道のジオラマの初公開です。蒸気機関車への水の補給、石炭の補給など、緻密に再現された細部も、ファンには大きな魅力の1つでしょう。
    この展覧会の見どころの第1は、1930年代以降のアメリカの鉄道黎明期を撮った鉄道写真家 O.ウインストン・リンクの作品群。リンクの撮るモノクロ写真は、当時の鉄の塊そのものという趣の蒸気機関車の迫力を惜しみなく表現している一方、バージニア州の片田舎の駅舎や人物など、ときの風俗をも活写している人間的な視点あふれる写真も見逃せません。
    加えて、日本の鉄道写真家のパイオニア広田尚敬氏の写真集『SL夢幻』からの作品も見応えがあります。広田氏は日本初の鉄道写真家と言われ、”鉄道のエッセンスを凝縮した詩情ある写真”により「鉄道写真の神様」と呼ばれているそうです。


    もう1つの見どころは、『国鉄の時代、がんばれ小海線』と題されたコーナー。元国鉄電気機関士・滝口忠雄氏による写真からは、自ら動かしていた列車への愛情がひしひしと伝わってきます。いつもそばにいた人でなければ撮れなかっただろうと思われるようなショットもあります。
    彼が実際に使っていた鍵や懐中時計、古びた運行表なども展示されています。
    さらに、このコーナーには、C56の時代を捉えた北杜市で写真館を営む植松波雄氏の作品や、高原の四季の自然と列車を好んで撮った中井精也氏、新しい世代の鉄道写真に挑む山下大祐氏らの力作が並びます。ローカルな魅力に溢れています。
    標高日本一、1345.67mにある単線の小海線野辺山駅には、2両連結の可愛い高原列車が止まります。地元民の生活の足でもある小海線ですが、存続の危ぶまれている区間があります。山梨県北杜市の小淵沢駅と長野県南牧村の野辺山駅の間。目安として1キロあたり1日に平均何人を運んだかを示す輸送密度が「1000人未満」を対象に、熱い議論が交わされているということです。
K MoPA 清里フォトアートミュージアム
山梨県北杜市高根町清里3545-1222
0551-48-5599
www.kmopa.com
『鉄道愛 For the Love of Trains』展
7月7日~9月24日(日)
(2023/8 よこやまゆうこ)

(C)Copyright 2004 Jomon-sha Inc, All rights reserved.

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