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<番外編>『山野草を植える』
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     野辺山の標高1500mの地では、開拓時に植えた数万本のカラマツが半世紀以上経つうちに成長し、今では天を突く高さに林立しています。苗木のときは適当な間隔に植えたつもりでも、直径が30cmを超える大木になると、当初の間隔ではいかにも近すぎる感があります。と言って、高木を伐採するのは大きな費用のかかることなので、地主もおいそれとは実行しません。
     すると、どうなるでしょう。敷地全域が太陽光の入らない暗い森になります。すると、日照時間が少ないため、足元に生えていた花々が消えます。
     30年前は、ホタルブクロ、オミナエシ、リンドウ、オダマキ、カタクリ、エビネ、ホトトギス、シモツケソウなど、庭先を歩いただけでも一抱えのブーケが作れたほどに山野草の豊かな環境でした。
     野草ばかりでなく、ホトトギス、コゲラ、キツツキ、オオルリ、ルリビタキ、カッコウなどの野鳥も、ここ数年、確実に数を減らしている感があります。トンボも減ったような気がします。
     そのような環境のなか、我が世を謳歌しているのは鹿。害獣の駆除は難しく、繁殖能力が高いのでエサの豊富な環境では怖いものなし。朝、窓辺に草を食みにきたバンビのつぶらな瞳と目があったりすると、可愛いと思わざるをえませんが、すぐに子供を産み繁殖するかと思えば、複雑な心境です。都会からの友人は、間近に鹿の家族と出会うと”カワイイ~~”とスマホを向けますが、『害獣』です。
     鹿が何をするかと言えば、樹々が若葉を出すと待っていましたとばかりにそれを食べ尽くします。樹は成長することができず枯れます。柔らかな葉がない冬場は、好みの樹々の樹皮をかじります。水脈を絶たれた樹は枯れることにつながります。夏場、野菜が植っていると見れば、気に入ったものを選んで食べてしまいます。隣人も勇んで庭に畑を作り、苗を植え収穫を楽しみにしていましたが、ことごとくやらてしまいがっかり。ワイヤーで囲いを作ったりしていましたが、ついに諦めてしまいました。驚くことに、草むらに巣を作る野鳥は、鹿が草を食べるので巣があらわになり、アナグマなどの小動物がヒナをとるので数が減ったとも聞きました。

(photo: n. miyakawa)

(photo: n. miyakawa)
    昨年秋、林立する唐松のせいで暗い敷地になってしまったので、意を決して50本余りを伐採しました。おかげで陽光が地面まで届くようになり、明るく風通しの良い敷地になりました。
    さらに、今年2月の雨氷と雪によって、背が高くなりすぎた白樺が見るも無惨に折れたり、雪の重さで曲がったりする大惨事が起きました。30年で初めての経験です。我が家のシンポルツリーも真ん中で折れたため、涙を呑んでバッサリ。
    そこで、次なるプロジェクトは、30年前のように、山野草豊かな環境に戻すことです。カラマツの切株が痛々しく見えるのをどうするか、目立たないようにするにはどうするかに知恵を絞ったところ、一石三鳥の方法を思いつきました。側溝に溜まった土と枯葉は自然の堆肥、これを切株にかぶせ、道の方に広がってきている草を土ごと掬ってその上にのせる。魔法のように周辺と一体化。草が育ってくれば、そこに切株があったことは全くわからなくなりそうです。
    植木屋さんの軽自動車に乗り込み、標高1000mあたりにある茅野市『つどいの里 八ヶ岳野草園』を訪ねました。湿度の高さに喘ぎながら、先述のような草花を購入。都会ならいざ知らず、珍しい高山植物ならいざ知らず、昔はどこにでも生えていた何気ない草花に値段がついていることに違和感をおぼえましたが、40本ほどを選びました。そのとき、もっとも注意して確認したのは、”鹿が好む草木かどうか”でした。例えばアセビのような毒性のある植物は食べませんし、山野草でも好き嫌いがあるそうです。花壇のようにならず、いかにも自然に咲いている風情を出すよう、そこここに植えてみました。さて、これらの苗木や野草は鹿の胃袋に入ることなく、来年は未生の種から数を増やしてくれるでしょうか。一面の野草が咲き乱れるさまを夢想してしまいます。
    植えた日の晩は豪雨、野草は大丈夫だろうかと案じましたが、しっかり上を向いていました。そして、翌朝は晴天、3羽の蝶と2匹のミツバチが寄ってきていました。どんな小さな花でも彼らは確実に見つけて蜜を吸いにくるのです。ちょっと感動!!
(2024/7 よこやまゆうこ)

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