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山梨県北杜市須玉町下津金というところに、山梨県指定文化財『津金学校』があります。
明治、大正、昭和に建てられた木造の校舎が一列に並び、初秋の明るい日差しを浴びて静かに佇んでいます。周囲は一面の畑。よくぞこのような畑の真ん中に小学校を建てることになったものだと、当時の様子を想像してみたくなります。
おそらく、今よりももっと多くの農家があったのでしょう。津金周辺から水煙型縄文土器が出土されるということは、この地には大きな縄文集落があったということが推測されます。
明治8年10月21日完成とある旧津近学校のファサードは実にユニーク。白く輝く漆喰壁、神社の正面を思わせる曲線を持つ破風板は鮮やかな緑、柱や桟は青に塗られているのです。屋上には授業の開始・終了を告げる太鼓を吊るした太鼓楼も復元されています。当時の人々にはずいぶんモダーンな建物に見えたことでしょう。
これは「藤村式建築」と呼ばれ、時の県令(知事)藤村紫朗にちなんで名付けられたもの。日本の大工技術で建てられた擬洋風建物です。「藤村式建築」で建てられた建物は県内に100を数えるといいますから、彼の熱意と実行力が感じられます。藤村紫朗は26歳で県令になったというのですから、当時の地方行政は年功序列などと無縁で、けっこう実力本位であったことがわかります。
さて、恐ろしく急な階段をおっかなびっくり昇り切ると、細長い教室が2つ。脇の部屋には当時使われていた人体模型図、天球儀、月食学習機、アコーディオン、ハモニカといった、当時の小学校の教育が”いい線”をいっていた印象を受ける資料が展示されています。
広く取られた窓には障子、天井板は杉の白木といった純和風の設え。畑を渡る涼風が吹き込む教室では、古びた毛筆の校歌の額が掲げられ、脇にはオルガンが。着古した飛白の着物を着た子供たちが校歌を歌い、一心に新しい知識を吸収していた様子が、映画の一シーンのように目に浮かぶことでした。
大正館では、農業体験施設として田植え、稲刈りのオリエンテーションをはじめ、郷土食ほうとう作り、蕎麦打ちなどが催されます。
さて、ここを訪れた本当の目的である昭和校舎跡に建てられた「おいしい学校」へ。
地元の農産物やワイン、ハチミツなどが販売されている奥に、当時の小学生が使った机や椅子が並ぶ食堂。メニューは2択。いずれも昭和のシンボルのような瓶入り牛乳付き。家族連れの旅行者や地元のおじさん風4人組が生ビール傾けつつのんびりとランチ。
中央高速須玉ICで降りて国道141号を20分ほど北上したところにあります。
(2024/9 よこやまゆうこ)
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