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<番外編>『山野草、その後』
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    SideStory#460では、背を伸ばしたカラ松が日照をさえぎったために姿を消した山野草のことを書きました。加えて、30余年間で繁殖を繰り返す天敵のいない鹿の害についても書きました。そして、数10本のカラ松を伐採して環境を整え、鹿の嫌うと言われる山野草を植えたことを書きました。翌朝には、小花をつける野草に蝶3頭、ミツバチ2匹が蜜や花粉に誘われてやってきました。さて、その後、可憐な花や苗木はどうなったでしょうか。

    早い話が、鹿は食べない、と言われた草花だけを選んで植えたのにもかかわらず、鹿が嗜好範囲を広げたものか、植えて2,3日のうちにほとんどの花が見事に食われてしまったのでした。これなら大丈夫と移植したアザミの花や葉っぱまでも。鋭い先端がとても痛くてさわれないアザミの葉が、お構いなしという風情ですっかり食われてしまっているのには驚きました。3,4週間して新たに小さな花を咲かせたものも、待っていたかのように食われました。紅葉や夏椿の苗木も葉を喰われ、数週間して新たにつけた小さな新しい葉も、しっかり見つけて食ってゆくのです。これでは光合成ができず、根を張ることがなく、木は成長できません。
    今年に生まれたような子鹿のいる5,6頭の家族とおぼしき一団は、毎朝、朝食のつもりか、同じ場所に現れては一心に下を向いて草を食んでいます。そのあとを見にゆくと、出たばかりの若い葉がすっかり消えていました。もう手の打ちようがないというのが実情です。
    せめても、草の枯れた冬場、夏椿や山桜の樹皮が食われるのを防ぐべく、プラスチックのネットで幹を囲い保護することにしました。すでに何本かの木々は樹皮を剥がれ、水脈を絶たれ立ち枯れています。根から吸い上げられた水は、木の中心部を通るのではなく、樹皮のすぐ下を上がってゆくので、一定面積の樹皮が剥がされると、そちら側に伸びている枝から枯れてゆくのです。
    ネット情報には、鹿害から庭木を守る方法について大量の記事が掲載されていることにも驚きました。ウルフ・ピー(狼の尿)という天敵である動物の匂いをそばにおく方法があることも学びました。が、人間だって不快な匂いのする道を散歩したくはありません。これは人気のない山深い畑などでは有効な手段なのでしょうか。
    ウオルト・ディズニーがアニメ映画『バンビ』を制作したのは1942年。日本で公開されたのは1951年。身近にバンビなど見たことのない日本人は、彼らの愛らしさに心躍らせたのでした。鹿害を知らない人たちは、庭に鹿が現れる、というと、ま~~素敵~~とおっしゃいます。今に至るまで愛らしく無垢なバンビのイメージは、しっかりと日本人の感情の中に根を下ろしているようです。
    ツキノワグマが町場に出てきたり、イノシシが信号を渡ったりが日常的になってきた今、生き物の命を奪うことは心痛むことですが、まずは今以上に繁殖して人や他の動物や植物に害を与えないようにすることから始めなければなりません。
    アメリカやカナダでもオオカミが絶滅した時期に同様の獣害が問題になりました。そして、長い時間をかけ天敵であるオオカミを増やし、自然に両者の数が釣り合ってゆく状況を作り上げてきました。でも、オオカミ!!と聞いただけで、人を襲う!と恐怖を感じます。日本の森にオオカミなんて、とんでもない!!と。

    『日本の森にオオカミの群れを放て』(ビング・ネット・プレス出版)なるセンセーショナルな題名の書物の著者・吉家世洋氏(科学ジャーナリスト)と監修の丸山直樹氏(東京農工大名誉教授)によると、オオカミは人を怖がる動物であり、飢えていなければ人を襲うことはないそうです。「、、、主に増えた獲物を食べ、繁殖の余地は残す。オオカミのこの行動のおかげで、鹿などの草食獣は、増えすぎず減りすぎず、その地域の生態系に合った適切な数にコントロールされているわけだ」とあります。アメリカやカナダと日本の国土の広さ、人口分布など同一に考えるわけにはゆかないことは言うを待ちません。しかし、むやみに動物の命を奪うことを感情に任せて非難してばかりもいられない現状が、日本各地で増えてきているのも事実です。あ~~、共生は悩ましい、、、。
    2021年3月に出された環境省のサイト:
https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5/imatora_fin.pdf
(2024/11 よこやまゆうこ)

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