達磨ストーブの上で油だしのための湯煎にかかる竹筆。
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能登の旅で出会った竹筆を作る人物を紹介する。
能登半島先端の町、珠洲焼で知られる珠洲市に住む釈迦院時雄(しゃかいん ときお)さん。 用途に応じて篠竹、黒竹、そして四方竹と呼ばれるやや四角っぽい竹を使って作る竹筆は、いずれも素朴で野趣味あふれる筆である。
今年75歳になる釈迦院さんは、かつては建築設計に携わり、1970年の大阪万博では、5、6棟の外国パビリオン建設に関わる仕事の鬼だった。その時、日本館に展示されていた故・西田幾太郎博士が愛用した中国の竹筆を見てすっかりその魅力に取り付かれ、すっぱりと職を捨て竹筆作りに打ち込むこととなる。40代半ばの大胆な決断である。
独学ゆえの試行錯誤。竹が出す油に悪戦苦闘しながら、木灰をいれて油分を煮だすことを知る。その油分を嫌う刃物に代えて、鹿の角で作った道具で竹の先端を細かく割ってゆく。指先の感覚だけを頼りに、髪の毛ほどの細さになるまで割る。訪ねた初冬の工房では、ストーブに乗せられたバットに数十本の竹が湯気を上げ、穏やかな七尾湾を見渡す庭先には、割り終えた竹筆が陰干しされていた。
近年は書道家をはじめ、趣味で書や絵を描く人々が訪ねてきたり、手紙で竹筆を所望してくる。竹筆は太さも長さもまちまちで、規格サイズなどないものゆえ、書いた字の写真を送ってもらい、ふさわしい筆を選んで送るようにしている。
ご興味のある方は:石川県珠洲市野々江町ヲ135番まで書面で。(文・写真:横山祐子)
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