長野県の国道141号線を北上すると、佐久市の北、小諸の西あたりに北御牧村という、その名のとおり牧歌的な里山がある。夏休みの一日、カーナビだけを頼りに、町を縦断し盆地を駆け抜け山を超えて、休暇を過ごしていた野辺山から2時間のドライブで、小山久美子さんが竹紙を漉いている勘六山を訪ねることができた。
後で知れば噛み癖のある猛犬たちが、その時は吠えもしないで出迎えてくれた。
小山久美子さんは、勘六山の主である作家水上勉さんのために「竹紙(ちくし)」を漉いている。その紙に水上勉さんが竹筆で描かれた絵と文章は『サライ』で「折々の散歩道」と題して連載されており、もう10年も続いている。見開きに竹紙に描かれた季節感ある絵とそれにちなむ短文が載っているこのページは、新しい号を手にするとまず先に開いてみる、『サライ』のなかでも特に私の好きなページだ。
小山さんとはある催しで出会い、珍しい竹紙をわけていただいたのがご縁で、今夏の訪問を約束していた。勘六山の仕事場は、赤松と竹林がうっそうと茂る小高い山の上。まず目に入るのは赤松の根元に置かれている10数個の青いポリバケツ群。水の中に浸けられた竹片がぎっしりとつまっている。蓋をとると竹が出す灰汁の強い匂いが立ち上るが、有機的な匂いなので慣れることができそうだ。
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