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南フランス滞在記 〜その6〜 Pascal Palun の針金アート


南仏便りその6では、伝統の意匠をオリジナリティ豊かなアートに仕上げて成功している若い女性アーティストをご紹介する。
アヴィニヨンのジョセフ・ヴェルネ通りを通りすがったとき、ふと、小さなショーウインドウに目をとられた。古めかしいようでいてそうでない、汚れているようで美しい、そんな印象のウインドウだ。ン?と目を凝らすと、枯れた草の上に素朴な椅子、その上にはもしゃもしゃとした鳥の巣のようなもの、うえからエレガントなカーブをもつ針金製のペンダントランプがひとつ下がっている。古めかしいレース模様の布を通して赤い光りが懐かしい雰囲気、でも、骨董品ではない。重い扉を押して中ヘ入ると小さなショールームがあり、針金で作られた灯りや、花瓶になるようなものが無造作に置かれていた。

「VOX POPULI民の声」

店の名前はヴォックス・ポピュリ、ラテン語の諺vox populi vox Dei The voice of the people is the voice of God.「民の声は神の声」からとったと、パスカル・パロンさん。パリのファッションデザイナー養成学校ESMODEで学び、服飾デザイナーとして仕事をしていた。とある日、スタジオでスタンドが必要となり、自分で作ることにした。その時からパスカルさんの人生は、針金に関わることとなった。彼女曰く、“私がこれを選んだわけじゃなく、そうなるようになっていたみたい”。20才の時だった。

 

 

パスカルさんは古いものが好き。普通の人にはガーベッジのように見えるものに美しいものがある。それらは時間を内にもっているから、という。彼女が使う針金はすっかり錆びて、どこかにうち捨てられていたような風情をもっているが、それが彼女の手によっていきいきとした命を得て、トンポになったりロメオとジュリエットになったりする。これらの作品を味わい深くしているもう1つの要素は、本当に古いものを使っていることだ。ドールハウスの床には、1600年代のペンで書かれた手紙のような紙が使われている。

 




 



幽かに灯りが灯っているスタンドを形つくるガーゼの布も古いもの。「サーカス」と名付けられたライトは、空中サーカスをする人物や、動物たちが古めかしい蝋紙を透かして見える。シャンデリアにあしらわれている小さな器も、アンティークガラス。水を入れ、アイヴィーを挿しておくと、根がでて針金に巻きついて登ってゆくそうだ。何と楽しいシャンデリア!
ウイットあふれる小物も楽しい。古い電球を無造作に針金で巻いて、その上にはやはりくるくると細い針金を巻いて作ったトンボや蜂や蚊が揺れながらとまっている。電球のなかに水を入れ植物をさしておくと、あたかも水を飲みにきたトンボがとまっているようだ。切れた電球ほど使い途のないものはない、はパスカルには通じない。

 


 

待つことを楽しむお客さん

その朝一番のお客さんは、オーストラリアからの若いご夫婦。半年前にアヴィニヨンを訪ねたときこの店を見つけ、どうしても忘れられなくて、わざわざ再びやってきた、と。あれやこれやとさんざん迷ったあげく、4つか5つ注文することに決めた。パスカルさんは来年1月のパリでの個展の制作で忙しく、2ヵ月待ちとか半年待ちのもあったが、オーストラリアからのご夫婦はもちろんオーケー。待つのも楽しみのうち、という手作りのものを愛するこころの持ち主であるらしい。
この夏、パスカルさんはニューヨークのレストランの注文で、灯りをたくさん作った。それ以来、すっかりニューヨークが好きになり、ダウンタウンの小さな道に店を持つのが目下の夢という。日本から「サーカス」(650ユーロほど)を10個注文されて送ったが、それっきりとのこと。パスカルさんの針金アートを見るには、アヴィニヨンに出かけるしかなさそう。

(2002/11よこやまゆうこ)

 


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