サンヴィクトワールは不思議な山だ。霊山という人もいる。頂上には十字架が立っていて、下からでもはっきりと見える。岩山の中腹あたりまで潅木がはえ、傘の様にひらいた地中海地方の松がうねるように林立する。足もとに目をやると、レンガ色の土。もしこの土を素焼き陶器にできたら、どんな鉄色になるのだろう。草むらに目を向けると、何やら白い点々としたもの。何と、それらは小さな小さなカタツムリ。手にとってみると、もぞもぞと動き出す。生きているのだ。立ち枯れのひまわりが首を垂れながらも、背筋を伸ばして並んでいる。季節が移ると、いつの間にかひまわり畑は消えていた。岩山はそんな自然に囲まれている。
晩秋の早朝、次第に消える靄から新鮮な太陽に照らされて姿を現わす山は、言葉もないほどに美しい。重く黒い雲に半分姿を隠した山も厳かだし、ミストラルが吹き荒れるなか、雲一つない紺碧の空をバックに見る山もいい。たった400mしかない低い山だが、何度も何度も近くに行ってみたくなる山だ。
(撮影/文:よこやまゆうこ)
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